キシロカインとは局所麻酔薬の一種であり、痛みの信号が脳に伝わるのを防ぐことによって麻酔効果を得ることが出来るお薬です。このキシロカインは、その優れた効能から局所麻酔薬として現在も広く用いられているものになりますが、局所麻酔薬としてだけではなく、不整脈の薬としてもキシロカインが用いられることがあります。
このキシロカインは局所麻酔薬として非常に優れた効能を持つため、現在も痛みを伴う治療などにおいては頻繁に用いられるのですが、このキシロカインは、時に喘息を悪化させ、発作を誘発する可能性があります。局所麻酔薬キシロカインによって、発作が誘発されてしまうかもしれないこの症状は、アスピリン喘息と呼ばれています。
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アスピリン喘息とは、基本的にはロキソニンやバファリンなどの、頭痛や生理痛を緩和させるために用いられる解熱鎮痛剤を服用することによって、重度の発作が引き起こされる病気です。この病気は小児にはほとんどみられず、大人でのみ見られる症状であることから、後天的に発症する病気であると考えられています。
しかし、この病気は実は局所麻酔薬であるキシロカインそのものによっては症状が誘発されることはありません。これはいったいどういうことなのでしょうか?
今回の記事では局所麻酔薬であるキシロカインに関する情報や、キシロカインを使用することによって誘発される可能性のあるアスピリン喘息に関する情報についてまとめていきたいと思います。
目次
局所麻酔薬キシロカインとは?

キシロカインとは、アストラゼネカという製薬企業が販売している局所麻酔薬の一種です。また、抗不整脈薬としても用いられます。このキシロカインは商品名であり、実際にはキシロカインに含まれるリドカインと呼ばれる成分が麻酔薬として働きます。
単純な麻酔の能力は、このキシロカインに含まれるリドカインより、テトラカインと呼ばれる成分の方が高いといわれいるのですが、キシロカインに含まれるリドカインの方が安全性が高いことから、一般的にはキシロカインを局所麻酔薬として用います。しかし、場合によっては安全性を考慮しながらキシロカインとテトラカインを併用する場合もあるそうです。
それでは、このキシロカインはいったいどのようにしてその麻酔効果を発揮するのか説明したいと思います。
まず、このキシロカインの主成分であるリドカインは、電荷をもつ原子(これをイオンと呼びます)を細胞の内外で行き来させる役割を持つイオンチャネル(つまりイオンを通す穴)と呼ばれる膜タンパクのうち、ナトリウムイオンが透過するナトリウムチャネルに結合します。
すると、このリドカインが結合していることによって、本来その膜タンパクを通るはずであるナトリウムイオンの透過が阻害され、電荷の移動がなくなり、活動電位が不活性化されます。
この活動電位とはナトリウムイオンやカリウムイオンといったイオンが、細胞の内外の濃度勾配に従い、チャネルを通って拡散することによって生じる電位あり、情報を伝達する役割を担っています。
そのため、キシロカインによる阻害によってナトリウムイオンがチャネルを通れなくなると、神経伝達が遮断され、痛みなどの情報が伝わりにくくなり、麻酔の効果を得ることが出来るのです。また、このナトリウムチャネルは心拍にも関わっているため、キシロカインは不整脈の改善の効果もあるそうです。
言葉だけでは少しわかりづらいと思いますので、以下の図を参考にしてください。

しかし、局所麻酔薬キシロカインを使用するうえで注意点もあります。このキシロカインは、高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進、糖尿病、血管攣縮などの症状を患う方に用いると、これらを悪化させる恐れがあります。もしこのような症状を患っている方は、キシロカインが使用されるのを防ぐために、先にしっかりと持病について伝えるようにしましょう。
また、局所麻酔薬であるキシロカインは、ブチロフェノン系、フェノチアジン系の抗精神病薬、α遮断薬、イソプロテレノール等のカテコールアミン製剤、アドレナリン作動薬などを使用している患者には使用してはいけないといわれています。何かの治療で麻酔が必要になった場合は、自分が使用している薬についてもしっかりと医師に伝えるようにしましょう。
アスピリン喘息とは?大人になってから気管支喘息を発症した方は要注意!

それでは次に、先ほど説明した局所麻酔薬キシロカインによって誘発される可能性のあるアスピリン喘息について詳しく説明していきたいと思います。
このアスピリン喘息とは、おもに解熱鎮痛剤の成分によって、鼻水、鼻づまりの症状や、重度の発作がひきおこされてしまう疾患です。現在、大人の喘息患者の約10%がこの疾患を患っていると考えられています。また、この症状は小児の患者にはほとんどみられないことから、後天的に発症するものであると考えられており、特に大人になってから気管支喘息を発症してしまった方に多くみられる合併症として知られています。
この病気の名前の由来にもなっているアスピリンとは、アセチルサリチル酸と呼ばれる成分を主成分とする解熱鎮痛剤であり、解熱鎮痛剤の中では最も歴史の古い薬の1つになります。ちなみに、皆さんもよく耳にするバファリンという薬の名前は、緩和を意味するBuffer(バッファー)とこのAspirin(アスピリン)を組み合わせた造語であり、バファリンシリーズのバファリンAにはこのアスピリンの主成分であるアセチルサリチル酸が含まれています。
このアスピリン喘息は、解熱鎮痛剤の成分によるアレルギー反応が原因で起こるものではなく、解熱鎮痛剤がその効果を発揮する際のメカニズムが関係して引き起こされる疾患です。解熱鎮痛剤はアスピリン以外にも、ロキソニンやボルタレンなど様々なものがありますが、これらは主成分は異なりますが、その作用メカニズムは皆同じなので、どれもアスピリン喘息の症状を誘発する原因となりえます。
では、なぜアスピリン喘息の患者は解熱鎮痛剤を服用すると発作の症状が誘発されてしまうのでしょうか、次にそのメカニズムについて説明したいと思います。
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アスピリン喘息の発作が起きるメカニズムとは?

それでは、なぜこの疾患の患者は解熱鎮痛剤の成分によって発作が引き起こされてしまうのか、これについて詳しく説明するために、まずロキソニンなどの解熱鎮痛剤は、いかにしてその解熱鎮痛作用を発揮するのか詳しく説明したいと思います。
まず、通常解熱鎮痛剤に期待される効果は、その名の通り熱や痛みの緩和です。これらの効果は、解熱鎮痛剤の成分がプロスタグランジンという成分の合成を抑制することで得ることが出来ます。アスピリンに含まれるアセチルサリチル酸、ロキソニンに含まれるロキソプロフェン、バファリンプレミアムに含まれるイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤の成分は、その構造や作用の強さは異なりますが、どれもがこのプロスタグランジンの合成を抑制することによって解熱鎮痛作用を示します。
このプロスタグランジンとは、私たちの体内でアラキドン酸と呼ばれる成分から合成される成分であり、体温調節枢に作用して体温を上昇させたり、痛みの原因である炎症を生じさせたる働きがあります。そのため解熱鎮痛剤によってプロスタグランジンの合成が抑制されると、プロスタグランジンによるこれらの症状も改善されるのです。
更に具体的に説明すると、解熱鎮痛剤の成分は、実際にはアラキドン酸→プロスタグランジンへの合成を促すシクロオキシゲナーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害します。つまりまとめますと、解熱鎮痛剤の成分は、アラキドン酸→プロスタグランジンへの合成において不可欠である酵素シクロオキシゲナーゼの働きを阻害することにより、この合成を抑制し、熱や痛みの症状を緩和させることが出来るのです。ここまでが、解熱鎮痛剤に期待される通常の作用になります。
しかし、アスピリン喘息の患者では、解熱鎮痛剤の成分によってこのアラキドン酸からプロスタグランジンの合成が抑制されてしまうと、ある問題が生じると考えられており、今度はその余ったのアラキドン酸から、ロイコトリエンと呼ばれる成分を大量に作り出してしまうと考えられています
このロイコトリエンとは、花粉やダニなどによってアレルギー反応が起こった際にヒスタミンなどとともに肥満細胞から放出される化学物質であり、鼻水などのアレルギー症状を引き起こす原因物質としても知られています。また、このロイコトリエンには気管支を収縮させる作用があるため、アスピリン喘息の患者はこの大量に作られたロイコトリエンによって発作が誘発されてしまうのです。これがアスピリン喘息の発作が起きるまでのメカニズムになります。
局所麻酔薬キシロカインがアスピリン喘息の発作を誘発する可能性があるのはなぜか?

先ほどそのメカニズムなどについてご説明したアスピリン喘息ですが、実は、局所麻酔薬であるキシロカインを使用した後にその症状が表れてしまう可能性があります。しかし、局所麻酔薬キシロカインに含まれている主成分、リドカイン自体にはこの疾患を誘発する可能性はありません。それは、解熱鎮痛剤のメカニズムがプロスタグランジンの生合成阻害であるのに対し、リドカインのメカニズムが活動電位の不活性化という全く異なる作用であるということからもわかっていただけると思います。
実は、局所麻酔薬であるキシロカインによってこの病気が誘発されてしまう場合、それはキシロカインに含まれるリドカインではなく、キシロカインに含まれるメチルパラベンと呼ばれる防腐剤によって引き起こされてしまうと考えられます。このメチルパラベンとは、化粧品や歯磨き粉に含まれる防腐剤の一種であり、微生物の繁殖などを防ぎ、商品の性質を保つために用いられる添加物です。そのため、このメチルパラベン自体はキシロカインに期待される麻酔作用とは何の関係ありません。
実はアスピリン喘息の症状は、このキシロカインの例のように、解熱鎮痛剤の成分ではない添加物によっても引き起こされる場合があるといわれています。例を挙げますと、パラベンの他にタートラジンと呼ばれる黄色の着色料もアスピリン喘息を誘発する恐れがあるといわれています。
また、この他サリチル酸化合物という分類に属する成分を摂取することもアスピリン喘息の症状を誘発する原因になる可能性があるといわれています。ちなみにアスピリンの主成分であるアセチルサリチル酸もサリチル酸化合物の一種なのですが、サリチル酸化合物は自然界に普通に存在しており、食品の中に含まれていることも決して珍しいことではありません、特にラズベリーにはサリチル酸が豊富に含まれているといわれています。
もともとはただのサリチル酸が、古くから鎮痛剤として利用されていましたが、これには胃腸障害の副作用があったため、この副作用を改善すべく作られたものが、アセチルサリチル酸と呼ばれる成分になります。サリチル酸、アセチルサリチル酸、そして、湿布薬の成分としてよく用いられるサリチル酸メチルは、それぞれ以下の図に示す構造になります。どれも構造が良く似ていますね。

まとめ

今回の記事では、アスピリン喘息の概要や、この病気の症状を誘発する可能性のある局所麻酔薬キシロカインに関する情報について解説しました。
アスピリン喘息の症状がある場合、局所麻酔をする場合はメチルパラベンが含まれていない静脈注射用キシロカインであれば使用が可能であるそうなので、もし麻酔が必要な時は、事前に医師に自分の疾患について説明して安全なものを使用してもらうようにしましょう。
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今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました(^^)
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