サリチル酸メチルとは解熱鎮痛剤(痛みどめ)の成分として用いられるサリチル酸化合物の一種であり、現在も医療の分野では広く用いられています。解熱鎮痛剤の中で有名なものにはロキソニンやバファリンなどが挙げられますが、これらは主に服用薬として使用されるのに対し、サリチル酸メチルは主に湿布薬の成分として用いられているようです。サリチル酸メチルが使われている湿布薬の代表的なものにはサロンパスなどがあります。また、このサリチル酸メチルは独特な香りを放つため、解熱鎮痛剤としてだけではなく、食品の香料などにも用いられているそうです。
サリチル酸メチルに代表されるサリチル酸化合物には、サリチル酸メチル以外にも、サリチル酸や、アセチルサリチル酸などが挙げられます。これらはどれも解熱鎮痛作用を示す成分として知られており、もともとはサリチル酸が解熱鎮痛剤として中心的に使用されていました。
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しかし、このサリチル酸には胃腸を痛めてしまうという副作用があることから、現在は使用されることはなくなり、このサリチル酸を構造変化させて胃腸への作用を優しくしたアセチルサリチル酸が、サリチル酸化合物の中では服用薬として中心的に用いられています。
しかし、現在も広く用いられているこのサリチル酸化合物ですが、実はときに気管支喘息を悪化させる原因となってしまう場合があるといわれています。これはいったいどうしてでしょうか?今回の記事では、サリチル酸メチルなどのサリチル酸化合物によって引き起こされる、アスピリン喘息という病気に関する情報についてまとめていきたいと思います。
目次
そもそも気管支喘息とは?
現在、気管支喘息の患者は国内に400万人以上いるといわれており、その数は年々増加しているといわれています。増加の原因について詳しいことは分かっていませんが、大人になってから急に気管支喘息になってしまう方も増えてきているそうですので注意が必要です。大人になってから急に気管支喘息を発症してしまう場合、風邪などの感染症に伴って発症してしまうケースや、季節の変わり目や出産などを機に急に発症してしまうケースがあるそうです。
感染症に伴って発症する場合、熱はひいたのに、いつまでも息苦しさを感じたり、乾いた咳(空咳)が続くので、病院へ行って診たもらったところ気管支喘息と診断されるというケースも多いそうです。気管支喘息は症状がひどくなると入院が必要になったり、最悪命を落としてしまうこともありますので、早期の対応が重要です。近年でも、気管支喘息によってなくなる方は年間2000人近くいるといわれています。
この気管支喘息は発作が起こってしまう病気という認識の方も多いかもしれませんが、正確には、気管支に慢性的に炎症が生じてしまう病気です。この炎症の影響によって気管支が敏感な状態となり、何らかの刺激によって発作が起こってしまう場合があるのです。
この、炎症によって敏感になった気管支を刺激する原因は人それぞれですが、特に多い原因はアレルギー反応になります。アレルギー反応とは、何らかの原因物質に対して体が抗体を作り出し、その原因物質と抗体が結びつくことによって起こる反応です。
そして、アレルギー反応が起きると、その信号が肥満細胞に伝わることによって、肥満細胞から体内にヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質が放出されます。そしてこれらの化学物質が気管支の収縮を促すことによって、気管支喘息の患者の場合は急激に気管支が収縮し、呼吸が困難になり、発作の症状が表れることがあるのです。
しかし、アレルギー反応以外にも、タバコの煙、ストレス、運動、等も喘息を悪化させる原因として挙げられ、中には今回説明するサリチル酸メチルなどのサリチル酸化合物によって喘息が悪化してしまう方もおり、この症状はアスピリン喘息と呼ばれています。
それでは、このサリチル酸メチルに代表されるサリチル酸化合物とはいったいどのようなものなのか、詳しく説明していきたいと思います。
サリチル酸メチルとは?

サリチル酸メチルとは、サリチル酸と呼ばれる物質の一部が、水素(H)の代わりにメチル基(CH3)に置き換わったサリチル酸化合物の一種です。サリチル酸化合物は自然界にも多数存在しており、以前鎮痛剤として広く用いられていたサリチル酸は19世紀に初めてヤナギの木の成分から分離されたといわれています。
そして、19世紀には基本的にこのサリチル酸が解熱鎮痛剤として使われていましたが、サリチル酸には胃腸障害を引き起こすという副作用がありました。このような理由から、バイエル社のフェリックスホフマンは、より副作用の少ない解熱鎮痛剤の研究を重ね、1897年についにサリチル酸をアセチル化し、より安全性の高いアセチルサリチル酸の合成に成功しました。
そして、このアセチルサリチル酸こそが、今回説明するアスピリン喘息の名前にも含まれるアスピリンになります。実はこのアスピリンとは商標名であり、アスピリンと呼ばれる鎮痛剤の有効成分はこのアセチルサリチル酸なのです。
サリチル酸、サリチル酸メチル、アセチルサリチル酸は皆同じサリチル酸化合物なので、どれも構造が似ており、これら3つとも解熱鎮痛作用を示します。サリチル酸、サリチル酸メチル、アセチルサリチル酸の構造はそれぞれ以下に示すようになっています。

この3つのサリチル酸化合物のうち、サリチル酸メチルは、自然界ではカバノキ科やツツジ科の植物に多く含まれ、独特なにおいもその特徴の1つです。そのため、サリチル酸メチルは食品の香料として用いられるほか、殺虫剤などの香料としても用いられることがあるそうです。
人工的には、サリチル酸とメタノールを反応させることによって、サリチル酸のカルボキシル基とメタノールの水酸基とで脱水縮合反応が起こり、サリチル酸メチルを得ることが出来ます。サリチル酸からサリチル酸メチルへの合成は、以下の図に示すような反応になります。

そして、このサリチル酸メチルは解熱鎮痛作用を示すことから、主に湿布薬の成分として用いられます。サリチル酸メチルが含まれる湿布薬には、サロンパス、トクホン、サロメチールなどがあります。しかしアセチルサリチル酸と異なり、サリチル酸メチルを経口投与することはないようです。
今回紹介するアスピリン喘息は、解熱鎮痛剤の成分全般によって引き起こされるものであり、主に湿布薬の成分としても用いられるサリチル酸メチルも例外ではありません。実はこのアスピリン喘息は、服用薬だけではなく、湿布薬や座薬などによっても症状が引き起こされてしまう場合があるのです。
それではこのアスピリン喘息とはいったいどのような病気なのか、詳しくまとめていきたいと思います。
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アスピリン喘息とは?
アスピリン喘息とは、サリチル酸メチルのようなサリチル酸化合物に加え、ロキソニンに含まれるロキソプロフェンや、イブクイックなどに含まれるイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤の成分によって、発作などの症状が誘発されてしまう病気です。
このアスピリン喘息は、現在大人の気管支喘息患者の約10%に見られる症状であるといわれており、子供の患者は基本的にいないことから、後天的に発症する病気であると考えられています。
この病気は解熱鎮痛剤の成分に対するアレルギー反応のようですが、実は解熱鎮痛剤の作用メカニズムが関係して引き起こされてしまう疾患です。では、このアスピリン喘息の症状はいったいどのようにして誘発されてしまうのかまとめていきたいと思います。
まず、私たちが解熱鎮痛剤を使用したいとき、つまり体に熱や痛みなどの症状があるとき、私たちの体内ではプロスタグランジンと呼ばれる成分が合成されています。
このプロスタグランジンは視床下部にある体温調節枢に作用して体温を挙げたり、血管を拡張させ痛みの原因となる炎症を悪化させたりします。解熱鎮痛剤の成分は、主にこのプロスタグランジンの生成を抑えることによって、熱や痛みの症状を鎮めることが出来るのです。
では、具体的にどのようにしてこのプロスタグランジンの生成を抑えるのかと言いますと、解熱鎮痛剤の成分は、プロスタグランジンがアラキドン酸と呼ばれる成分から合成される際、この合成を促すように働くシクロオキシゲナーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害します。するとアラキドン酸からプロスタグランジンへの流れが抑えられ、プロスタグランジンが合成されるのを抑制することができるため、熱や痛みを和らげることができます。これが、解熱鎮痛剤に期待される通常の作用になります。
しかし、アスピリン喘息の患者ではこの際ある問題が生じます。この疾患の患者では、解熱鎮痛剤の成分によってアラキドン酸からプロスタグランジンへの合成が抑制されてしまうと、今度はアラキドン酸からロイコトリエンと呼ばれる成分を合成してしまうのです。
このロイコトリエンという言葉に見覚えはないでしょうか?このロイコトリエンはアレルギー反応が起きた際にも体内に放出される、気管支の収縮を引き起こす原因物質です。つまり、アスピリン喘息とは、アレルギー反応ではありませんが、結果的にアレルギー反応のような症状を引き起こしてしまう病気なのです。
この疾患は基本的には解熱鎮痛剤の成分によって引き起こされますが、実は解熱鎮痛剤以外のものによって誘発されてしまう場合もあります。この疾患を誘発するものとしては、着色料として使用されるタートラジン、食品や化粧品の防腐剤として使用されるパラベンなどが挙げられます。また、今回説明したサリチル酸化合物が多く含まれた野菜や果物なども、この疾患を誘発する原因となる場合がありますので注意してください。特に、ラズベリーにはサリチル酸化合物が多く含まれているそうです。
まとめ
今回の記事ではアスピリン喘息の概要や、サリチル酸メチルなどのサリチル酸化合物に関する情報についてまとめていきました。
アスピリン喘息は基本的に服用薬によって誘発される場合が多いのですが、湿布薬によっても誘発されることがあります。湿布薬の成分としては、サリチル酸メチル以外にもインドメタシンなどがありますが、このインドメタシンもアスピリン喘息を誘発する可能性が高いそうなので、もし気管支喘息の患者は、今後解熱鎮痛剤を服用したり、湿布薬を使用したりする場合には注意してください。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました(^^)
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