現在、気管支喘息の患者は国内に400万人以上いるといわれており、その患者数は年々増加傾向にあるといわれています。
気管支喘息はアレルギー反応などによって発作が起きてしまう病気、というイメージの方も多いかもしれませんが、この病気の根本的な原因は、気管支に慢性的に生じるようになってしまう炎症です。普通、気管支などの喉における炎症は、細菌やウイルスなどが感染した時にその免疫反応として見られるのが一般的ですが、気管支喘息を発症すると、特にウイルスなどの感染が起きていないのに、気管支において好酸球と呼ばれる免役細胞の増加がみられ、気管支が慢性的に炎症を起こすようになってしまうのです。
すると、炎症を起こした気管支はむくみを起こすため、気管支喘息の患者は慢性的な息苦しさや、喉の違和感を感じるようになります。また、炎症を起こしてむくんでしまったこの気管支は非常に敏感な状態となっているため、この気管支が、アレルギー反応、タバコ、お酒、運動などによって刺激を受けると、急激な収縮を起こして呼吸が困難になってしまうことがあります。これが、気管支喘息における発作と呼ばれる症状です。
今述べたように、気管支喘息の患者の根本的な原因は気管支の炎症であり、この炎症が起きている気管支が収縮してしまう原因となるものは人それぞれなのですが、気管支喘息の患者の中には、ロキソニンやバファリンなどの解熱鎮痛剤によって発作が誘発されてしまう方もいます。この症状はアスピリン喘息と呼ばれており、現在大人の気管支喘息患者の約10%ほどがこの症状を患っていると考えられています。このアスピリン喘息という症状は、解熱鎮痛剤に対するアレルギー反応ではなく、解熱鎮痛剤の作用メカニズムが関係して引き起こされてしまう疾患です。メカニズムの詳細は後程詳しく説明いたします。
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このアスピリン喘息は、解熱鎮痛剤によって症状が誘発されてしまうという特徴以外に、多くの方が好酸球性副鼻腔炎と呼ばれる症状を患っているという特徴があります。副鼻腔炎とは蓄膿症とも呼ばれる病気で、鼻の粘膜において炎症が起こる病気です。このうち、好酸球性副鼻腔炎では、粘膜において白血球の一種である好酸球の増加が見られます。
副鼻腔炎、という病名をご存知の方も多いと思いますが、一般的な副鼻腔炎は、好中球性副鼻腔炎と呼ばれるものであり、アスピリン喘息の合併症として見られる好酸球性副鼻腔炎とはその症状や治療法などが異なります。今回の記事では、アスピリン喘息の概要や、好酸球性副鼻腔炎と好中球性副鼻腔炎との違いや治療法に関する情報などについて、詳しくまとめていきたいと思います。
目次
好酸球性副鼻腔炎と好中球性副鼻腔炎の違いとは?どちらもその症状として鼻茸(ポリープ)が出来ますが、前者はステロイドによる治療が有効であるのに対し、後者は抗生剤投与によって治療します。

好酸球性副鼻腔炎は未だにその詳しい原因が分かっておらず、一般的な副鼻腔炎(好中球性副鼻腔炎)に比べて難治性であるといわれています。
好中球性副鼻腔炎と好酸球性副鼻腔炎では、発症すると鼻の粘膜に鼻茸と呼ばれるポリープができ、鼻水、鼻づまりの症状が現れ、嗅覚の低下などの症状が起こるという点は類似しています。しかし、好酸球性副鼻腔炎では、鼻の中を調べると免役細胞である白血球の一種、好酸球の増加が見られ、この増加した好酸球が原因で炎症が起こっていると考えられています。
これに対し、好中球性副鼻腔炎は主に細菌が鼻の粘膜に感染することによって症状が現れます。その名前からもわかるように、好中球性副鼻腔炎では、先ほどの好酸球性副鼻腔炎とは異なり、鼻の粘膜において好中球と呼ばれる白血球の増加が見られます。
好中球性副鼻腔炎では、まず鼻茸が出来ている場合は手術によってこれを取り除き、たまった膿などを吸引します。鼻茸の手術自体はそれほど時間を要するものではなく、早ければ2時間ほどで終わり、入院の必要もなく帰宅できるそうです。そして手術後は、定期的に鼻の洗浄を行い、細菌の繁殖を防ぐためにマクロライド系の抗生剤の少量長期投与を行うことで症状の改善を図ります。
このマクロライド系の抗生剤の少量長期投与は、細菌の繁殖を防ぐという目的以外に、先ほど述べた好中球の働きを抑えるという働きもあります。好中球性副鼻腔炎では、免役細胞である好中球が働いた結果、組織の障害や、粘液の過剰な分泌が起きてしまうことがあるため、マクロライド系の抗生剤を使用して好中球の作用を抑えることによってこれらの症状を防ぐのです。このように、マクロライド系の抗生剤によって細菌の繁殖を防ぐとともに、好中球の働きを抑える療法はマクロライド療法と呼ばれています。
ここで、「そもそも抗生剤って何?」と感じた方もいるかもしれませんが、抗生剤とは、もともとは細菌が体内で産生していた物質のことであり、同じ環境に他の種の細菌がいた時に、その細菌が繁殖するのを防ぐ作用のある成分になります。つまり、細菌は自分たちだけが優位に繁殖できるように、他の種類の細菌が繁殖するのを防ぐ物質を体内で作り出しているのです。私たちはこれを抗生剤と呼び、薬として利用しているのです。世界で初めて発見された抗生剤はペニシリンと呼ばれるものであり、1928年にアオカビから発見されました。
その後、抗生剤は数多くの種類が発見され、その抗生剤の作用メカニズムによって、マクロライド系抗生剤の他、ニューキノロン系抗生剤、セフェム系抗生剤、テトラサイクロン系抗生剤、そしてペニシリン系抗生剤などに分類されます。細菌の感染症が起きた時は、この中からその細菌に合った抗生剤が選択され処方されることになります。(ちなみに、風邪は主にウイルスが原因となって起こる感染症であり、その原因は細菌でないことがほとんどなので、抗生剤は処方されません。ウイルスと細菌はどちらも感染症の原因となりますが、この2つはその大きさも性質も大きく異なります。)
話は戻りますが、先ほど説明した好中球性副鼻腔炎に対して、好酸球性副鼻腔炎は、細菌が関与しているとの見方もありますが、抗生剤の治療は効果が薄いことから、手術によって鼻茸を切除した後はステロイド剤によって炎症を抑え、再発を防止することが治療の基本といわれています。ステロイドには、好酸球の働きを抑えることによる抗炎症作用があります。しかし、このようにステロイドによる治療を行っても、好酸球性副鼻腔炎の場合は現時点では完治はなかなか難しいといわれています。
そして、この好酸球性副鼻腔炎の患者は、気管支喘息、特にアスピリン喘息の症状を合併している場合が多いということが分かっています。それでは、このアスピリン喘息とは一体どのような疾患であるのか、詳しく説明していきたいと思います。
アスピリン喘息とは?気管支喘息の患者で鼻づまりの症状がある方は要注意…

アスピリン喘息とは、解熱鎮痛剤の成分によって鼻水、鼻づまりの症状や、発作が誘発されてしまう疾患です。この症状は解熱鎮痛剤の服用から1時間程度で現れるといわれており、症状が重症化しやすいといわれています。
また、この症状は現在大人の気管支喘息患者の約10%ほどが患っていると考えられており、逆に小児の患者はほとんどいないことから、後天的に発症する疾患であると考えられています。特に大人になってから気管支喘息になってしまった方に多くみられる合併症として知られていますので、大人になってから気管支喘息を発症してしまった方で、慢性的に鼻づまりの症状が表れるようになったという方は解熱鎮痛剤を服用する際には注意が必要です。(アスピリン喘息の特徴である好酸球性副鼻腔炎を併発している可能性があります。)
この症状の名前に含まれるアスピリンとは、アセチルサリチル酸という成分を主成分とする鎮痛剤のことであり、現在使用されている解熱鎮痛剤の中では最も歴史のある薬です。しかし、アスピリン喘息の症状自体は、アスピリンだけではなく、ロキソニン、バファリン、ボルタレンなど、その他ほとんどの解熱鎮痛剤の成分によって引き起こされてしまいます。これは、このアスピリン喘息という病気は、アスピリンに含まれるアセチルサリチル酸に対するアレルギー反応ではなく、解熱鎮痛剤の作用メカニズムが関係して引き起こされる症状であるからです。ロキソニン、バファリン、ボルタレン、アスピリンは、どれもその有効成分は異なるのですが、熱や痛みの症状を和らげるメカニズムは同じなのです。
そして、このアスピリン喘息は、解熱鎮痛剤の成分によって誘発されるということ以外にも様々な特徴がありますが、先に述べたようにまず、この疾患の患者では多くの方において好酸球性副鼻腔炎の症状が見られます。もし、嗅覚低下の症状が見られ、好酸球性副鼻腔炎の診断を受けた方は、解熱鎮痛剤の成分に過敏に反応してしまう可能性がありますので十分に注意してください。
また、この疾患の症状は、実は解熱鎮痛剤の成分以外のものによっても誘発されてしまう場合があるといわれています。解熱鎮痛剤以外の誘発物質としては、防腐剤として用いられるパラベンや、着色料として用いられるタートラジンなどが挙げられます。パラベンはパラオキシ安息香酸エステルと呼ばれる成分の総称であり、食品や化粧品、歯磨き粉などに含まれています。このように思いがけないところにも誘発物質が含まれている可能性があるため、解熱鎮痛剤に過敏に反応してしまう方は、なるべくこうした添加物の入った食品などは避けるようにしましょう。
また、この疾患の患者はサリチル酸化合物が含まれたものに対しても過敏に反応してしまう可能性があると考えられています。サリチル酸化合物は香辛料、歯磨き粉、特定の野菜や果物などに含まれています。特に果物ではラズベリーにサリチル酸化合物が多く含まれているそうです。気管支喘息の患者で、このようなサリチル酸化合物が含まれたものを摂取した後に息苦しさを感じたりした場合は、アスピリン喘息の可能性があります。ちなみに、アスピリンの主成分であるアセチルサリチル酸もサリチル酸化合物の一種です。
また、この疾患の患者はコハク酸エステルと呼ばれる構造にも過敏に反応してしまうと考えられています。このコハク酸エステルとは一部の医薬品の成分に見られる構造で、その成分の水溶性を高め、生体に使いやすくする目的で一部がこのように構造変化させられています。抗生剤の一種であるクロラムフェニコールコハク酸エステルナトリウムなどはこの構造を持っている代表例です。このように医薬品の安全性や水溶性を高めるために成分を構造変化させたものはプロドラッグと呼ばれています。クロラムフェニコールと、それを構造変化させたクロラムフェニコールコハク酸エステルナトリウムの構造は以下の図に示したものになります。

ここで何が問題かというと、このコハク酸エステル構造は、気管支喘息の発作を鎮めるための静脈注射用のステロイド剤の一部にも見られるということです。このコハク酸エステル型ステロイドはアスピリン喘息の患者に投与すると、症状をよくするどころか、さらに重症化を招く恐れがあるため、この疾患の患者には投与してはいけないといわれています。
しかし、このコハク酸エステル型ステロイドが使用される場合というのは、発作がおきて緊急を要する状況ですので、何らかの手違いによってアスピリン喘息の発作時にコハク酸エステル型ステロイドが投与されてしまう可能性はゼロではありません。また、何よりアスピリン喘息の患者自身が自分が解熱鎮痛剤によって発作が起きているということに気が付いていないと、このコハク酸エステル型ステロイドが投与されてしまう可能性があります。
もしアスピリン喘息の発作が起きてしまった場合には、必ず医師に自分がアスピリン喘息の患者であるということを伝えるようにしましょう。また、アスピリン喘息の発作時には、収縮してしまっている気管支の筋肉を弛緩させるアドレナリン(エピネフリン)の筋肉内注射が有効であるとされていますので、これも合わせて覚えておくと良いでしょう。
ここまでに何度も書いていますが、このアスピリン喘息という病気は、解熱鎮痛剤の成分に対するアレルギー反応ではなく、解熱鎮痛剤の作用メカニズムが関係して引き起こされる疾患です。それでは、最後にこの疾患の発症メカニズムについて詳しく説明したいと思います。
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アスピリン喘息のメカニズムとは?

アスピリン喘息の患者は解熱鎮痛剤の成分によって鼻水、鼻づまりの症状や発作などが引き起こされますが、この反応はアレルギー反応ではありません。
アレルギー反応の場合は、まずその原因物質となる抗原が体内に侵入した際、肥満細胞の表面に付着しているこの抗原に特異的な抗体がこの抗原に結合します。(この抗体はigE抗体と呼ばれ、体内に侵入してきた抗原を異物として体が認識すると産生され、その抗原を排除するために肥満細胞の表面に付着してまた抗原が侵入してくるのを待っています。)
するとその信号が抗体と結合している肥満細胞へと伝わり、肥満細胞からロイコトリエンやヒスタミン等の化学物質が放出され、これらの化学物質によって鼻水、鼻づまりなどのアレルギー症状が引き起こされます。また、ヒスタミンやロイコトリエンには気管支を収縮させる作用があるため、気管支喘息の患者ではアレルギー反応によって発作が起きてしまう方もいます。
これに対し、アスピリン喘息は解熱鎮痛剤の成分に対して抗体が作用しているわけではありません。ではこの症状はどのようなメカニズムで起きているのか、詳しく説明したいと思います。
まず、私たちが解熱鎮痛剤を使用したい時、つまり熱や痛みの症状があるとき、体の中ではその原因となるプロスタグランジンと呼ばれる成分が合成されています。
このプロスタグランジンは、体温調節枢に作用して体温を挙げたり、痛みの原因となる炎症を生じさせたりします。ロキソニン、バファリンなどの解熱鎮痛剤の成分はこのプロスタグランジンの生成を抑制することによってこれらの作用を抑え、熱や痛みを鎮めることが出来るのです。
実際には、この解熱鎮痛剤の成分は、プロスタグランジンが生成される際に重要な働きをするシクロオキシゲナーゼと呼ばれる酵素の働きを抑制します。このシクロオキシゲナーゼには、プロスタグランジンがアラキドン酸と呼ばれる成分から合成される際、この合成を促す働きがあるのです。そのため、シクロオキシゲナーゼの働きを抑制すると、結果的にアラキドン酸→プロスタグランジンへの流れを抑制することが出来、熱や痛みの症状を和らげることが出来るのです。これが解熱鎮痛剤に期待される通常の作用になります。
しかし、アスピリン喘息の患者では、解熱鎮痛剤の成分によってこのアラキドン酸→プロスタグランジンへの流れを抑制してしまうと、今度はアラキドン酸からロイコトリエンを大量に生成してしまうと考えられてます。
このロイコトリエンとは、先ほど述べたようにアレルギー反応の際肥満細胞から放出される化学物質であり、気管支の収縮作用などがあります。つまり、アスピリン喘息とは、アレルギー反応が起きて表れる症状ではないのですが、結果的にアレルギー反応と同じような反応が引き起こされてしまう疾患なのです。これがアスピリン喘息のメカニズムになります。
ロイコトリエン自体がアラキドン酸から生成されることは以前から知られていたことなのですが、なぜこの疾患の患者でだけ、解熱鎮痛剤を服用すると急激なロイコトリエンの産生が始まってしまうのかということは未だに未解明な部分があります。しかし、発作が重症化しやすいということは分かっていますので、もし解熱鎮痛剤を使用した後に息苦しさを感じたりした場合には、早めに病院へ行くようにしましょう。
まとめ

今回の記事では、アスピリン喘息の概要や、この疾患に合併して起こる可能性がある好酸球性副鼻腔炎等に関する情報をまとめました。
好酸球性副鼻腔炎は難治性であり再発の可能性も高いですが、ステロイドを利用したケアをしっかりと行うことで再発しないようにコントロールすることは可能です。もし症状が現れてしまった場合は、医師の指示のもと治療を継続的に治療を行うようにしましょう。また、難治性と書きましたが、ステロイドによるコントロールの結果好酸球性副鼻腔炎の症状がほとんど完治した方もいるそうです。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。(^^)
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