現在、大人の気管支喘息の患者のうち、その約10%がアスピリン喘息の症状を発症する可能性があるといわれています。
アスピリン喘息とは、ロキソニンやバファリンなどの解熱鎮痛剤を服用すると、それからほどなくして鼻水、鼻づまりの症状や、重度の発作の症状が引き起こされてしまう病気です。普段から頭痛や生理痛の症状を抑えるためにロキソニンなどの鎮痛剤を持参しているという方も多いと思いますが、この病気の患者は薬局で手に入るような鎮痛剤はほとんどのものが発作を誘発する原因となってしまいます。
ちなみに、この病気の名前の由来にもなっているアスピリンとは、アセチルサリチル酸と呼ばれる成分を主成分とする鎮痛剤のことであり、鎮痛剤の中で最も歴史のある薬です。ドイツバイエル社のフェリックスホフマンという方が、1897年に初めて合成に成功しました。このアセチルアサリチル酸が合成されるまでは、ただのサリチル酸と呼ばれる成分が鎮痛剤として用いられていたのですが、このサリチル酸には胃腸障害を引き起こすという副作用があったため、より胃腸にやさしい薬の研究を行った結果このアセチルサリチル酸が生まれました。
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その後、アスピリン以外にも、ロキソニンやバファリン、ボルタレンなど様々な鎮痛剤が開発されていくのですが、今挙げたものは皆アスピリン喘息の症状を誘発する原因となってしまいます。これは何故かというと、どの薬も鎮痛作用を示す主成分は異なりますが、どの成分もみな同じメカニズムによって鎮痛作用を示すからです。
少しわかりにくい表現になってしまいましたが、つまり、アスピリン喘息とは、解熱鎮痛剤に含まれる成分が、その鎮痛作用を示すように体の中で働きかけた結果発作などが引き起こされてしまう病気なのです。鎮痛剤を飲むと発作が出る、と聞くとアレルギー反応のように聞こえますが、このアスピリン喘息という病気はアレルギー反応ではなく、鎮痛剤が持つ作用メカニズムが関係している病気なのです。
今回の記事では、まずアスピリン喘息の患者は何故鎮痛剤を服用すと発作が起きてしまうのか、そのメカニズムについてお伝えしていきますが、ここまで読んでいただくと、それではアスピリン喘息の患者は使える鎮痛剤はないのかとほとんどの方が感じると思います。
しかし、確かにこの病気の患者は使える鎮痛剤がほとんどないのが現状ですが、数ある鎮痛剤の中にはこの病気の患者でも使えるといわれるものもあります。そこで今回の記事ではこの病気の患者でも使える鎮痛剤にはどのようなものがあるのかご紹介してい期待と思います。
目次
アスピリン喘息の発作は何故起こる?この病気のメカニズムについて解説します!

それではまずはじめに、アスピリン喘息の患者は何故ロキソニンなどの解熱鎮痛剤を服用すると発作などの症状が引き起こされてしまうのか、そのメカニズムについて詳しく解説していきたいと思います。
まず、私たちが解熱鎮痛剤を使用したいとき、すなわち熱が出ていたり、体のどこかに痛みが生じている時、私たちの体内ではそれらの症状の原因となるプロスタグランジンと呼ばれる成分が合成されています。このプロスタグランジンは、視床下部にある体温調節枢に作用したり、痛みの原因となる炎症を生じさせることによってそれらの諸症状を引き起こすのです。
そして、ロキソニンやバファリンなど、現在鎮痛剤として販売されているものの多くは、このプロスタグランジンが生成されるのを防ぐことによって、プロスタグランジンによって引き起こされる熱や痛みの症状を鎮めることが出来るのです。
もう少し具体的に説明しますと、痛みや熱の原因となるこのプロスタグランジンは、私たちの体の中でアラキドン酸と呼ばれる成分を材料にして合成されているのですが、このアラキドン酸→プロスタグランジンの合成においては、シクロオキシゲナーゼ(COX)と呼ばれる酵素の働きが不可欠であるとされています。
そして、解熱鎮痛剤の成分には、まさにこのシクロオキシゲナーゼの働きを阻害する働きがあり、この作用によってプロスタグランジンがアラキドン酸から合成されるのを防ぐことができるのです。ここまでが、まずロキソニンなどの鎮痛剤に期待される通常の作用メカニズムになります。
しかし、ロキソニンなどの鎮痛剤の成分によって発作などの症状が引き起こされてしまうアスピリン喘息の患者は、ここである問題が生じてしまいます。実は、アスピリン喘息の患者は、鎮痛剤の成分によってCOXの働きが阻害され、アラキドン酸からプロスタグランジンへの産生がおさえられてしまうと、今度は新たにアラキドン酸からロイコトリエンと呼ばれる物質を合成してしまうのです。
このロイコトリエンとは、アレルギー反応が起きた際に肥満細胞から放出されるアレルギー症状の原因物質としても知られており、強い気管支の収縮作用もあります。つまり、アスピリン喘息の患者は、解熱鎮痛剤を服用すると、このロイコトリエンが大量に産生されてしまうことによって、鼻水、発作などのアレルギーのような症状に加えて、気管支の収縮による発作が誘発されてしまうのです。
このアスピリン喘息は、結果的にアレルギーのような症状が引き起こされてしまう病気ですが、アレルギー反応は異物と認識したものに対して抗体が結合することによっておこる反応ですので、アスピリン喘息とアレルギー反応は全く異なるものになります。アレルギー反応がどういうメカニズムによっておこるのか、ということについては以下の記事で解説しています。
【※気管支喘息とアスピリン喘息の違いとは?】その症状や原因、薬による気管支喘息の治療に関する情報はこちら…
このアスピリン喘息の症状は、いったん症状が表れると急激に悪化しやすいと言われているため、もし症状が出てしまったら早急に対応をとる必要があります。もし手元に経口ステロイド内服薬など発作治療薬がある場合には、それを使用して息を落ち着かせ、その後病院へ行って医師の判断に従いましょう。この際どのような鎮痛剤を服用したのか、また服用からどのくらいで症状が表れたのかしっかり説明しましょう。
また、実はこの病気は鎮痛成分を含むものなら服用薬以外のものも症状を誘発する原因になるといわれていますので注意が必要です。服用薬以外のものとは、すなわち、湿布薬、座薬、点眼薬などです。もしこれらの薬を使用した後に息苦しさなどを感じた時も早めに対処するように気を付けましょう。
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アスピリン喘息の患者でも使える鎮痛剤とは?

では、アスピリン喘息の患者は使える鎮痛剤はないのかと言いますと、中にはこの疾患の患者でも比較的安全に使えるといわれるものもありますので、次にそれらの鎮痛剤について詳しく説明していきたいと思います。
まず、アスピリン喘息でも使える鎮痛剤として、エモルファゾンと呼ばれる鎮痛剤が挙げられます。このエモルファゾンは成分名であり、商品としては、ペントイルやセラピエースといった名前で販売されています。
なぜこのエモルファゾンはアスピリン喘息の患者でも使えるのかと言いますと、実はこの鎮痛剤は鎮痛作用を示すのですが、その作用機構にCOXの阻害は認められないため、アスピリン喘息の患者であっても使えるといわれています。具体的には、このエモルファゾンと呼ばれる成分は、発痛物質として知られるブラジキニンの働きを抑えることによって鎮痛作用を示します。一般的にアスピリン喘息の患者では使えないロキソニンなどの鎮痛剤は、酸性消炎鎮痛剤いわれるものに分類されるのですが、アスピリン喘息の患者でも使えるこのエモルファゾンは塩基性の消炎鎮痛剤に分類されます。
また、アスピリン喘息の患者でも使える鎮痛剤として、このほかにも、セレコキシブ、エドトラク、メロキシカムといった鎮痛剤が挙げられます。(いずれも成分名です)これらは、この記事で説明したアスピリン喘息の原因になるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害するのですが、ただその原因となるCOXを阻害するわけではないのです。セレコキシブ等の鎮痛剤に関する詳しい情報は以下の記事で解説しています。
セレコックスって本当にすごい!アスピリン喘息の患者がセレコキシブを摂取しても大丈夫な理由とは…
また、使用の際の容量に気を付ければ、カロナール(成分名:アセトアミノフェン)と呼ばれる鎮痛剤も比較的安全に使えるといわれています。カロナールに関する詳しい情報は以下の記事でまとめています。
アスピリン喘息の患者や妊婦や小児でも比較的安全に服用できるカロナールとは?カロナールとロキソニンの効能や副作用の違いについて説明します!…
鎮痛成分だけじゃない?アスピリン喘息の患者が気を付けるべきこととは…

アスピリン喘息の患者は使える鎮痛剤が少なく、もし発作を誘発する原因となる鎮痛剤を使用してしまうと命に係わるほど重症化することもあるということは最初にも書きましたが、実はアスピリン喘息の患者は、鎮痛剤以外のものによってもその症状が誘発されてしまうことがあるといわれています。
もしまだアスピリン喘息とは知らない方で、それらを摂取した後に息苦しさなどを感じた場合はアスピリン喘息を発症している可能性があります。詳しい情報は以下の記事でまとめています。
【※アスピリン喘息と好酸球性副鼻腔炎の関連とは?】抗生剤で治療する好中球性副鼻腔炎との違いや、その治療に有効なステロイド、鼻茸の切除手術に関する情報などについてまとめます。
まとめ

今回の記事ではアスピリン喘息の概要や、アスピリン喘息の患者でも使える鎮痛剤に関する情報についてまとめました。
このアスピリン喘息という病気は、大人の気管支喘息の患者の約10%に見られる病気ということは最初にも書きましたが、特に大人になってから気管支喘息を発症した方に多い合併症として知られています。
もし、大人になってから気管支喘息を発症してしまった方は、鎮痛剤に過敏に反応してしまう可能性もありますので、使用の際は十分に気を付けてください。
また、よろしかったらこちらの記事もご覧になってみてください。
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今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました(^^)
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