アスピリン喘息とは、現在大人の気管支喘息の患者の約10%ほどが患っていると考えられていもので、解熱鎮痛剤の服用によって、鼻水、鼻づまりの症状や、重度の発作が誘発されてしまう疾患のことを言います。この病気の名前の由来にもなっているアスピリンとは、アセチルサリチル酸と呼ばれる成分を主成分とする解熱鎮痛剤のことであり、解熱鎮痛剤の中では最も歴史のある薬の1つです。
症状だけを聞くと、この疾患は解熱鎮痛剤の成分によるアレルギー反応が原因で引き起こされているように聞こえるかもしれませんが、実際にはアレルギー反応ではなく、解熱鎮痛剤の作用メカニズムが原因となって引き起こされます。つまり、解熱鎮痛剤の成分が、熱や痛みの症状を緩和させようとその作用を発揮した結果引き起こされてしまうのがこのアスピリン喘息の症状なのです。
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現在一般的によく使われている解熱鎮痛剤には、ロキソニンやボルタレンなど、アスピリン以外にもさまざまなものが存在していますが、これらはその主成分の構造は異なれど、熱や痛みを抑える作用メカニズムは皆同じなので、どれもアスピリン喘息の症状を誘発する原因となります。これらはどれも、熱や痛みを抑えるために、私たちの体内に存在しているシクロオキシゲナーゼ、通称coxと呼ばれる酵素の働きを阻害します。
このcoxには、さらにcox1とcox2という主に2種類のものがあるのですが、アスピリン喘息のメカニズムについて知り、対策を立てる上で、このcox1とcox2について知ることは非常に重要です。今回の記事では、アスピリン喘息のメカニズムと、cox1、cox2に関する情報について詳しくまとめていきたいと思います。
目次
アスピリン喘息とは?大人になってから気管支喘息を発症した方は要注意!

アスピリン喘息とは、解熱鎮痛剤を服用すると、鼻水、鼻づまりの症状や、重度の発作が誘発されてしまう疾患です。現在大人の気管支喘息患者の約10%ほどがこの症状を患っており、逆に小児の患者はほとんどいないことから、後天的に発症する疾患であると考えられています。そのため、大人になってから急に気管支喘息を発症してしまった場合は、ロキソニンなどの痛み止めを飲む際には注意が必要です。
この疾患の患者は、アスピリンだけではなく、ロキソニンやバファリンなど一般的に薬局においてある解熱鎮痛剤はほとんどのものが症状を誘発する原因になります。そして、市販で販売されているこれらの解熱鎮痛剤は、そのほとんどが非ステロイド性抗炎症薬、通称NSAIDs(エヌセイズ)というものに分類されるため、アスピリン喘息は、NSAIDs過敏喘息とも呼ばれています。
またこの疾患は服用薬だけではなく解熱鎮痛剤の成分が含まれた湿布薬や座薬などによっても誘発されてしまう恐れがあるため、服用薬のみを避ければ安心というわけではありません。
それでは、なぜこの疾患の患者は解熱鎮痛剤を使用すると発作などの症状が表れてしまうのでしょうか、それには解熱鎮痛剤が熱や痛みを抑える際のメカニズムが大きく関係しています。
シクロオキシゲナーゼ阻害によっておこるアスピリン喘息のメカニズムはこちら!cox1とcox2について解説します…

それでは、解熱鎮痛剤を服用すると、どのようにして発作などの症状が引き起こされてしまうのか、このアスピリン喘息のメカニズムについて説明するために、まずは解熱鎮痛剤がどのようにして体内で解熱鎮痛作用を発揮するのか詳しく説明したいと思います。
まず、私たちが解熱鎮痛剤を使用したいときとき、つまり熱が出たり、外傷による痛みや頭痛などの症状があるとき、体内ではこれらの原因となるプロスタグランジンと呼ばれる成分が合成されています。
このプロスタグランジンは、体温調節枢に作用して体温を上昇させたり、血管を拡張させて痛みの原因となる炎症を生じさせる働きがあります。そして、アスピリンやロキソニンなどの解熱鎮痛剤の成分は、このプロスタグランジンの合成を抑制することによって、プロスタグランジンによる熱や痛みを軽減させることが出来るのです。
更に具体的に説明すると、解熱鎮痛剤の成分はこのプロスタグランジンがアラキドン酸と呼ばれる成分から合成される際、その合成を促すよう働く酵素の働きを阻害することによって、アラキドン酸からプロスタグランジンへの流れを抑制することが出来ます。このとき解熱鎮痛剤の成分によって抑制される酵素が、最初に述べたcox(シクロオキシゲナーゼ)なのです。
ここまでをまとめますと、解熱鎮痛剤の成分は、アラキドン酸→プロスタグランジンへの合成に不可欠なcox(シクロオキシゲナーゼ)の働きを阻害することによって、その合成を抑制し、熱や痛みの症状を緩和させてくれるのです。ここまでが解熱鎮痛剤に期待される通常の作用になります。
しかし、アスピリン喘息の患者ではこの時ある問題が発生すると考えられており、解熱鎮痛剤によってcoxの働きが阻害され、アラキドン酸→プロスタグランジンへの流れが抑制されてしまうと、今度はアラキドン酸からロイコトリエンと呼ばれる成分を大量に合成してしまうと考えられています。
このロイコトリエンとは、ダニや花粉などによるアレルギー反応の際、免役細胞である肥満細胞からヒスタミンなどとともに体内に放出される化学物質として知られており、鼻水や咳などのアレルギー症状を引き起こす物質として知られています。また、このロイコトリエンには気管支を収縮させる作用があるため、アスピリン喘息の患者は解熱鎮痛剤を使用すると、大量に合成されてしまったこのロイコトリエンによって鼻水、鼻づまりの症状や発作が引き起こされてしまうのです。これがアスピリン喘息のメカニズムになります。
と、ここまで説明したところで最初に少し触れた話に戻りたいのですが、解熱鎮痛剤によってその働きが抑制されるcoxには、主にcox1とcox2の2種類があります。それでは、このcox1とcox2はそれぞれ体内においてどのような働きを担っているのか、また、アスピリン喘息の発症と深く関わっているのはcox1、cox2のどちらのなのか、詳しく説明していきたいと思い案す。
まず、cox1とcox2のうち、cox1は体内の様々な部位で、常時発現している酵素であり、プロスタグランジンを合成することによって、止血作用や胃粘膜を保護する役割があります。つまり、cox1は生理現象の調節において重要な役割を担っている酵素と言えます。
一方、常時発現しているcox1に対し、cox2は炎症が起こった際に急速に誘導される酵素であり、炎症部位で大量にプロスタグランジンを作ることによって炎症をさらに悪化させてしまいます。ここからわかるように、熱や痛みの症状を抑えるためには、特にcox2の阻害が重要なのです。
しかし、現在販売されている解熱鎮痛剤の多くは、その作用においてcox1とcox2の両方の働き阻害することが分かっており、アスピリン喘息の原因となるのは、このうち熱や痛みを抑える上ではそれほど重要でないcox1の方の阻害であるということが分かってきています。つまりまとめますと、熱や痛みを抑えるためにはcox2の阻害だけで十分なのに、cox1の働きも阻害してしまった結果発作が引き起こされてしまうのがアスピリン喘息なのです。
現在販売されている解熱鎮痛剤は、ほとんどがcox1とcox2の両方の働きを阻害してしまうことには変わりありません。しかし、近年では、cox2の働きをより選択的に阻害する解熱鎮痛剤というものも登場してきており、これらの鎮痛剤であればアスピリン喘息の患者でも比較的安全に利用できるといわれています。
cox2を選択的に阻害する解熱鎮痛剤の成分としては、メロキシカム、セレコキシブ、エトドラク、ナブメトンなどがあり、メロキシカムを主成分とする鎮痛剤にはモービック、セレコキシブを主成分とする鎮痛剤にはセレコックス、エドトラクを主成分とする鎮痛剤にはオステラック、ハイペン、ナブメトンを主成分とする鎮痛剤にはレリフェンなどがあります。
cox2選択的阻害薬は、もともとはcox1阻害によっておこる消化管への副作用を軽減させる目的で開発されたものですが、それが結果的にアスピリン喘息の患者でも使える鎮痛剤となったようです。もしアスピリン喘息の患者で解熱鎮痛剤を使用したい場合には、十分注意した上でこのcox2選択的阻害薬を使ってみてはいかがでしょうか。
また、アスピリン喘息の患者は、そもそも鎮痛メカニズムがcox阻害ではないエモルファゾン(これは成分名であり、商品名はペントイルやセラピエースなど)や、非常に弱いcox阻害作用を示すアセトアミノフェン(商品名はカロナールなど)も、服用の間隔を6時間以上あけ、1回の服用を300mg以下にすれば比較的安全に服用が可能であるといわれています。
まとめますと、アスピリン喘息の患者でも比較的安全に使用できる鎮痛剤としては、モービック、セレコックス、オステラック、ハイペン、レリフェン、ペントイル、セラピエース、アセトアミノフェン(1回の服用300mgまでで、間隔を6時間以上あける)などが挙げられます。
しかし、cox2選択的阻害薬は、cox1よりも選択的にcox2の方を阻害をする薬ですので、cox1の阻害が全くないというわけではありません。そのため、アスピリン喘息の症状を誘発してしまう可能性も0ではありませんので、もし服用する際には十分な注意の上で使用するようにしましょう。
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その他アスピリン喘息の患者が注意すべきことはこちら!

解熱鎮痛剤の成分によって引き起こされるアスピリン喘息の症状ですが、実は解熱鎮痛剤の使用以外にも気を付けなければならないことがいくつかあります。
まず、アスピリン喘息の症状は、時に解熱鎮痛剤以外のものによっても引き起こされる可能性があるといわれています。現在この疾患の誘発物質として挙げられているのは、着色料の一種であるタートラジン、化粧品や食品、歯磨き粉などに含まれる防腐剤のパラベン(安息香酸エステル)、同じく防腐剤の安息香酸ナトリウム、そして保存料、酸化防止剤のサルファイト(亜硫酸塩)などです。
また、この疾患の患者はサリチル酸化合物に過敏に反応してしまうことも知られています。サリチル酸化合物は、香辛料、歯磨き粉、そして特定の果物や野菜などに多く含まれています。特にラズベリーにはサリチル酸化合物が豊富に含まれているそうなので、ラズベリーを食べた後に息苦しさを感じた場合はアスピリン喘息の疑いがあります。
ちなみに、アスピリンの主成分であるアセチルサリチル酸もサリチル酸化合物の一種です。自然界によく存在している、サリチル酸化合物の基本であるサリチル酸や、湿布薬の成分としてよく用いられるサリチル酸メチル、そしてアスピリンの主成分であるアセチルサリチル酸の構造は以下に示すものになります。どれも構造が良く似ていますね。

また、この疾患の患者は、コハク酸エステルと呼ばれる構造に過敏に反応してしまうことも知られています。このコハク酸エステルとは一部の医薬品の成分などに見られる構造であり、もともとの成分の水溶性などを高めるために成分の一部がこのコハク酸エステルに構造変化させられています。このように、医薬品の安全性や水溶性を高めるために、その一部が構造変化させられているものはプロドラッグと呼ばれています。
このコハク酸エステル構造は、静脈注射用の抗生剤であるクロロイセマイチンサクシネートに含まれる成分である、クロラムフェニコールコハク酸エステルナトリウムなどに見られるほかに、気管支喘息の発作が起こった際に使用される静脈注射用のステロイド薬の一部にも見られます。実はこれが問題であり、アスピリン喘息の患者と通常の気管支喘息の患者との区別がついていないまま、アスピリン喘息の患者にこの薬が投与されてしまうと、症状を悪化させてしまう恐れがあるのです。
アスピリン喘息の患者へのこの薬の投与は禁忌であるといわれていますが、このような医療ミスが起こる可能性は0ではありません。このようなミスを防ぐためにも、気管支喘息の患者自身が、今後アスピリン喘息を発症してしまう可能性があるということ、そしてその際に注意すべきことを認識しておく必要があります。コハク酸エステル構造は以下の図に示したものになります。

また、この疾患だけではなく、気管支喘息の患者全員にあてはまることなのですが、気管支喘息の患者はβ遮断薬と呼ばれる薬の使用は避けた方が良いといわれています。β遮断薬は主に血圧を下げる際などに用いられる降圧剤の一種なのですが、血圧を下げるほかに気管支を収縮させる作用があります。もし高血圧の方で気管支喘息の症状がある方は、β遮断薬の使用にあたっては医師と十分に相談し、なるべく弱い作用の薬を処方してもらうなどの対策をとるようにしましょう。
まとめ

今回の記事では、アスピリン喘息のメカニズムや、この疾患を理解するうえで重要なcox1、cox2などの情報についてまとめました。
アスピリン喘息の症状は、cox1とcox2のうち、特にcox1の阻害が大きく関係していると考えられています。そのため、アスピリン喘息の患者で、解熱鎮痛剤を使用したい場合は、cox2選択的阻害薬や、ペントイル、セラピエースなどそもそもcoxを阻害しないような鎮痛剤を使用するようにしましょう。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました(^^)
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